スウィートブラックホール







スウィート ブラック ホール





考えごとをしながら、ぷかりとタバコの煙を吐いた。
縁側に座っているので、ゆるい風でその煙はかき消されてなくなった。 空はきれいに晴れていて、薄雲がかかってゆるゆると流れていく。銀時の着物の流水の模様を思い出す。
十月に入って、涼しい日が続きかなり過ごしやすい。今年の夏は暑かったから、この季節は待ち望んだ桃源郷に等しい。
でも秋がやってくると毎年のことながらある事に数週間から数日、頭を悩ませることになるのだ。 まあそれも、待ち望んだことのひとつなのかも知れない、と土方は自嘲ぎみに笑った。
その悩みともいうのが、銀時の誕生日とやらである。
無視を決め込むことも別にかまわないのだが、それはそれでこの説明のつかない感情に対して素っ気なさすぎるような、愛想がないような気もする。
それに何より、なんだかんだと銀時も、毎年土方の誕生日を祝ってくれているというのが何よりの理由だ。 借りを返すとかいうことじゃなく、土方自身も祝われて嬉しくないはずがないし、その感情をくれた相手にもそういうものを返したいと思うのは、 おかしなことでもないと、勝手に思っている。
だから、こうして渡すものを考えているわけで。


「物はいらねえ、って言われてっしな……」


傍らに置いた灰皿にタバコを押しつけて消す。銀時は何かにつけて物に対する執着が薄い。 いつも身につけている木刀すら、通販の何代目なんだか知れたものじゃない。
甘いもの、というのが確かに一番喜びそうなのだけれど、それはいつも通り過ぎてワンパターンなのが自分で気に入らない。
もっとなんかこう……と頭をひねっているところに、沖田が廊下の端から歩いてきた。隊服姿で、手に資料を報告書をひらひらさせながらこっちへ向かってくる。


「土方さん、これ」
「おお。この事件どうなった……おい総悟」


沖田は土方の横にしゃがみこむと、顔を覗いてにたりと笑った。


「何考えてたか当ててあげやしょうか?」
「おう、上等だコラ」


当たるはずがないし、仕事の話を無視しやがったので、軽く挑発して沖田の顔を睨んだ。すると、沖田は自信たっぷりに言い放ってくれた。


「旦那の誕生日のことでしょう」
「……お前」
「あ、図星かよ」


あきれたように肩をすくめて、沖田は大きくわざとらしいため息をついた。
そうしながらもこちらを横目でうかがって、口元はにやにやと笑いをたたえたままだ。しばらく黙っていると、沖田は軽く肩を叩いて真面目な顔をして言った。


「あの旦那のことだから、いちご牛乳でプールとか、パイ投げし放題とかが一番喜ぶんじゃねえですかィ」
「あー……マジでそうだろうから嫌だな……」
「ま、せいぜいがんばって用意してあげてくだせぇ」


最後のその言葉だけはからかう様子もなくそう言って、沖田は来た廊下を戻って行った。


「はー……ったくほんとによぉ」


銀時の笑う顔を思いながら、もう少しなんとかならないか考えるためにタバコに火を点けた。でももうこの感情は、どうにもできないんだろうけども。












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10.10.10
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色んな意味で銀さんは、甘いブラックホールなんじゃないかって話