空が
青かったから
ぴんぽん、と昼間ののどかな空気の中にチャイムが響いた。 姿勢悪くジャンプを繰っていた銀時は軽く顔をあげて、新八を呼んだが、そう言えば今日は二人とも出掛けているんだった、とやっと気付く。 ゆっくり体を起して、ジャンプを置き、頭を掻きながら玄関へ向かう。依頼者は、まだしびれを切らさずに戸の向こう側に居るだろうか。 「へいへいっと」 「おお、金時、久しぶりじゃあ!」 「……おめーかよ」 バカみたいに明るい声で言われて、返事もそこそこに戸を閉めた。 なんの気まぐれだか知らないが、こちらの極楽な怠惰の時間を奪われてたまるものか。それがもう何年来だかの知り合いだとしても。 「おお?金時?金時いいいいい」 叫びながら戸を叩く辰馬を無視して、とっとと中へ戻る。どうせ鍵は開いているのだ。本当に用事があるのなら、あがってくるだろう。 この扱いは別に長い付き合いだからとかいうわけではなく、土方にだって同じようにしている。 わざわざ、どうぞいらっしゃいなんて言うようなキャラではないし、そんなものを求めてここに来るやつなんていない。 まあ、最近の土方は勝手にあがっていくし、勝手に帰って行くのだけれど。 「金時、なんじゃあ、戸ぉ閉めんでもよいじゃろー」 「銀、時、だって言ってんだろーがボケ」 「そうじゃあ、土産をな、持ってきたぞ」 片手に提げていた紙袋を机に置くと、辰馬は勝手にソファに座る。 その袋を見やると、いつもは奇抜な柄だったりどこの星の菓子だか分かったもんじゃあないような土産なのに、 今回はちゃんとした有名菓子店の、きちんとした商品のようだった。 「珍しい」 「これはのー、陸奥がわざわざ買うてきてくれたんじゃ」 「ああ、あの男勝りの……あんなのと、なんだかんだ言ってまだ一緒にいんのか」 「そうじゃのう」 曖昧に辰馬は笑うと、軽く頭を掻く。こんな顔見たことあったかな、なんて思う。照れてんだか、嬉しがってんだか。 陸奥には何度か会ったことがあったが、初めて会ったのは辰馬が宇宙に行ってもう何年も経ってから、偶然江戸に来ていたときのことだった。 隣に女を立たせている姿を見たのは初めてだったが、かつて一緒にいた時は何事にも笑って動じなかった辰馬が、 その女の前ではやたらとかいがいしく、時には焦ったりたじろいだりしている姿を見て銀時は目を疑ったのだった。 しかも、そんなことをさせているのだからさぞかし絶世の美女か、美人薄明の言葉が似合うような女かと思えば、確かに美人ではあるが、 格好も特に気にした様子もないし、言葉もずいぶんと雑だった。なんでこいつをと思っても仕方がないような印象だったのだ。 そのあと何度か顔を合わせた時も、その印象は特に変わらなかった。うまく辰馬を動かしているなあなんて思ったりもしたが、それだけだった。 「陸奥は、ええ奴じゃき」 「……どこがいいのかは知らねえけどな」 「おんしかて、あの警察の、黒髪で目つきの悪い男のことがええんじゃろ、わしもどこがいいかは知らんがの」 「ん、な、んで知ってんだ」 「何度か見たことあるきのう。いちいち声かけるほど野暮なことはせんきに」 にっと辰馬は笑うと、顔を軽く上げて青く澄んだ窓の外の空を仰いだ。その黒いレンズ越しで一体何を見ているのかは知らないが、 こいつは時々ものすごい勢いで真理をついてくる。だから侮れないと思うし、少し怖くもある。 そういうところにあの女が魅かれているのならいいなぁなんてくだらないことを考えて、それを気付かれたくなくてその考えを振り払ってみる。 「陸奥とは、ケンカしとうて一緒に居るようなもんじゃ。なあ、金時もそうじゃろ、それが楽しゅうて仕方ないっちゃもう一緒におるしかなかろう?」 「まー……否定はしねーわ」 じゃろう、と辰馬は嬉しそうに顔をゆがめた。こんな顔、知らなかったなあ、なんて。陸奥はこいつのこんな顔を知っているのだろうか。 かつて一緒に居た時にはなかったものを作りだしている、この離れていた時間は一体どれほどの価値があるのだろう。 分かりもしないが、測れもしないものだろう、それでいいのだきっと。 土方とケンカばかりしていることを、見透かされているのは少し癪ではある。楽しいと思っていることも。 どうしようもないことは重々承知だ。きっと、自分だって辰馬のように、曖昧でバカみたいに笑っているのだろう。 ふと顔をあげて辰馬を見る。お互いしょうがないなあなんて、口には出さないけど。 「ほどほどにな」 「おんしこそ」 呆れたみたいに笑いあう。聞きもしないが、好きになった理由もお互いたぶん、今日のように空が綺麗に青かったからとか、 そんな程度のものなのだろう。あとは、ケンカが楽しかったら、それで万々歳だ。 -------------------------------------------------------------- 2011.11.21 辰馬と銀さんはCPとか関係なく、うだうだ話してるの好きです |