背中合わせ







背中合わせ





そもそもが、会った時からむやみにいがみ合ってたんだから、背中合わせでも同じ場所に立とうとしていること自体が奇跡としか言いようがないのだ。


「そういうことを時々忘れるんだから、人間てすげー単純にできてると思わねえ?」
「俺は、仕事の邪魔すんなっつってんのに、いつまでたっても全く覚えようとしねえお前の頭の単純すぎる作りに、いい加減嫌気がさしてきてるところだよ」


言ってる言葉の割に怒って聞こえないのは、たぶんすでにその場所を通り過ぎて、呆れに到達しているからだろう、と銀時は思う。
呆れを通り越したら慣れになって、それもいつかしか当たり前になるんだったら、感情とはひどく単純だと思うし、怒りが発生する行動もいつかは生活の一部になってしまうのであればその過程は複雑怪奇な気もする。簡単でも難しくても、結局のところどっちでも構わないのだ。
文机に向かって仕事をしている土方の背中に、わざと背中が当たる距離で腰かけて、ゆっくり背中を押し付ける。背骨同士が当たって、お互いの体温と、同じはずの身長ながらもやっぱり若干違う体格であったり、そういうきっと普通に向き合った時にはわかりえないことを、こうして知ることができるだけでも相当な奇跡だ。そうだ、そうだった。お前の知らないお前と、俺の知らない俺を、共有しないことの価値なんか、俺たちが勝手に思っていればいいことだ。


「で、何を忘れるって?」
「えーと……俺は、お前が俺を好きだってこと?」
「は、なに言って」


喋れるくらいには残りの仕事に余裕ができてきたのだろうか。土方の背中に、思い切り体重をかけて、銀時はうひひ、とわざとらしく笑い声を立てる。顔が見えないのはいいことだ。こんな顔、昼間っから見せるわけにはいかない。


「もっと詳しく話すのは、布団の中でな」


背中合わせじゃできないことなんて、それくらいでいいんじゃないの、なんて背中をさらに押し付けて。












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2014.05.04
スパコミのプチオンリー、HGノベルコレクションのペーパーラリーのお題「背中合わせ」
で書いたSSでした。ノベコレお疲れ様でした。