ブログにアップした、「小説バトン」の加筆修正版です。
銀魂以外のジャンルもあります。銀魂のカップリングも節操無しですのでお気を付け下さい。

・銀魂
沖神、坂銀、銀沖、近土、土そよ、土銀土、3Z土銀、沖神→銀、万事屋
・笛!
シゲ水
・涼宮ハルヒの憂鬱
キョンハル







1,「さよならまで」(沖神)


あと少ししかないのです。


彼の肌の色が私とそんなに変わらなくなってしまったのは、ただ単に太陽に当たらなくなった、 ということだけじゃないのは私にだってわかっていた。
最初のうちこそ強がっていたけど、今じゃ、中庭を見渡せる座敷に敷いた布団から出てくることはほぼなくなった。
真選組のゴリラもマヨも、私が勝手に入って沖田に会おうとしても怒らなくなった。
むしろゴリラに至っては悲しそうな顔をしながら、少し笑って通してくれる。


「また来たのかィ」
「暇つぶしアル」


縁側から、傘と靴を放りだして布団の傍らに座る。
外は心地よい小春日和だけれど、ここはひんやりと冷たい。何かが、巣食っているからだとわかっていても、口にはしない。


「もうすぐ、さよならだ」
「それまでは一緒にいるヨ」


この手が掬えるものなんて、きっと自分の涙くらいだろう。






2,「僕が愛して君が憎んだ」(キョンハル)


「なんでお前はいつもそう…」

今年が終わるまでにいったいいくつ溜息をつくだろう。この少し寂れた部室棟の一角で。
またもや突拍子もないことを言い出した口を塞ぎたいと思いながら、また一つ溜息をつく。
成功するも失敗するも、学校中から注目され、普通の人間であるはずの自分がいろんなところでフォローに走り、 教師陣の冷たい目線に堪えないといけない。

そんなことを考えているうちにも、当の本人は思いつきの計画を滔々とその口から迸らせている。
もう聞く気もないので、言葉はすでに入ってきていない。元気よくその口だけが動いている。


「じゃあキョン!いくわよ!」


がっしり腕を掴むとそれだけ叫び、廊下に無理やり連れ出された。ななめ後ろから見える顔はひどく楽しそうだ。

愛しかった何もない日常は、君が憎んでどこかに行ってしまった。
それすらも、楽しいと思いはじめてしまったのだから、もう、おしまいだ。







3,「きっと、また、この掌に」(坂銀)


白い翼は、羽ばたくと美しく空を切って、そしていなくなった。


「よかったがか?」
「よかったも何も、放してやんなきゃいけねーだろ」


銀時はそう言って、さっきまで鳥の止まっていた手を閉じて、そっと下ろした。
傷ついて、それでも美しかったあの白い鳥は、なんだか銀時に似ていた。
偶然拾った小鳥は、怪我が治ると元気に大して広くもない部屋のなかを飛び回った。
勝つ見込みのないこの戦の疲れを少しばかり、癒してくれた。何より、銀時が嬉しそうに見えた。
それがただ、辰馬には心地よかった。


「わしは帰ってくるぜよ」
「帰ってこなくていーって。好きなだけ、宇宙で遊んでこいや」


銀時は振り返らずにそう笑った。硬く握られた、その手に触れた。
黙ったままの銀時の掌は冷たく、今温めたところで、きっと、またこの掌に戻ってくると約束はできなかった。
それがただ悲しくて、泣くこともできないのだ。







4,「気づくと」(シゲ水)


「あれ、シゲは?一緒じゃないの」


なんで。

まああいつとはいろいろあったし、他の人に話してないこととか話したりとか、
あいつ自身もなんだかんだで俺のこと気に入ってくれてるみたいだし、とは感じているものの、
こうやってあからさまに他人に言われるとなんだかなあ、と思ったりもするわけで。

サッカー部のミーティング(女子も一緒)は放課後の教室で行われていた。
日直だったために遅れて行った竜也からすれば、一緒じゃないの、という問い自体がおかしいのだ。
シゲは先に来ているはずなんだから。


「屋上にでもいるんじゃないのか」
「じゃあ連れてきなさいよ」
「なんで俺が」
「だってそういうのは水野の役じゃないの」


小島は頬杖をついて淡々と言う。気づくともうそのポジションだったのだからどうしようもない。
でももっと重要なのは、気づくと、シゲのことが割と好きだったりすることだ。
うんざりしたような顔を装って、屋上へと走る準備をする。







5,「辛くない、辛くないけど今は泣かせて」(銀沖)


「別に、わかりきってたことなんでさァ。辛くは、ないんです」


はは、と笑ったその色素の薄い、姉にそっくりな髪がさらさらと首筋で踊った。
たぶんそれは強がりなんだろうと、わかっていたけれど、あえて口には出さなかった。
本人がわかっていないから。言ったところで、違うと否定されればそれは違うのだ。所詮他人のたわごとにすぎない。


「じゃあ、なんで泣いちゃってるの」


さあ、と沖田は首をかしげた。いつものにやり笑いはなりをひそめて、あの病弱そうな笑顔と似た、
少し困ったような顔で涙を流している。筆で書いたように綺麗な曲線を描いて。


「大親友の前だからですかねィ」
「まあ、そうだね」


指先でつむじの辺りを触れるか触れないかの具合で撫でてやると、胸元にどすん、と顔をくっつけられた。

今だけは、泣かせてくだせえ

聞こえなかったふりをして、つむじに一つキスをする。







6,「二番目」(近土)


そんな称号はいらない。


何を投げ打ってでもそばに来てくれることや、ましてや彼自身よりも大事にされるなんてことはご免こうむりたかった。
それは、欲しいものではなかったから。俺のことなどどうでもいいのだ。
むしろ、潔く切り捨ててくれるくらいの気持ちを持っていてくれる方が、俺にとっては正しいのだ。


「トシ!」


痛みに耐えてつぶっていた目を、睨むように開く。


「あんたは先に行け!あんたの一番は、真選組だろうが!」


それがすべてなのだ。あんたの二番目でいることが、俺のすべてだ。そうして死んでゆくのなら、本望なのだから。
苦しげに顔を逸らし、そして一瞬の躊躇の後に走りだした近藤の後ろ姿をじっと見送って、力なく土方は目を閉じた。







7,「勿忘草の花言葉(…私を忘れないで)」(土そよ)


逃げ出したら、またあなたが迎えにきてくれるのかと思うと、それは結構な誘惑だったけれど、 もし来てくれなかったら、私はどうしようもない。
だからしない、というわけではなかったけれど。 どちらにせよ、私に最初から選択肢などない。

ここに来たのはきっと他のお仕事で来たのだろう。
それなのに、わざわざ通りがかっただけの私のために立ち止まってくれるなんて、見かけによらずお人よしだ。
どうせないだろうけど、立ち聞きされるのも嫌だったので、中庭に誘った。外はよい天気だ。


「お久しぶりですね」
「…そうですね」


土方さんは黙っている。私みたいな世間知らずと何を話せばいいかわからないだけだろう。
女の人にもてそうな容姿だから、緊張や委縮などするタイプではないということぐらいは、わかる。


「あの花、なんていうか知ってますか?」


静かに風に揺れて群生している、小さな青い花を指さす。これといって派手さもない、ただひっそりと咲く。


「さあ…そういったことには詳しくないので」


そうですか、と小さくほほ笑む。


「……私を、忘れないで」


微かな声は風にさらわれて、きっとあなたには聞こえなかっただろう。







8,「君がいない世界」(土銀土)


まつ毛が、風にそよいでいるのを感じている。
仰向けで窓から入る空気を受け止めて、けれどその後はしらんぷりで、額からその向こうへと流してしまう。
そしてまつ毛をそよがせたその風は、土方のタバコの煙を同じようにすう、と引っ張ってどこかに消えてしまう。
目をつぶっていてもわかる。土方が煙を吐き出すタイミング、音、匂い。


「寝てんのか」
「起きてますぅ」


瞼を開いて、ごろりと今度はうつ伏せになる。その目線の先にはちゃんと土方がいる。
ああ、いるな、と思う。そして、消えてなくなったりしないのだな、こいつは、と思う。


「うん、同じ世界にいれて、よかった」
「はあ?意味わかんねえ」
「会えてよかったってことだよ」


再び目を閉じて、一人でくすくす笑ってやる。
もしも、出会えていなかったら、と君のいない世界で生きていた自分を思う。ああ、確かに別世界だ、と深呼吸する。
肺の底には、土方のタバコの匂いが暖かく蓄積している。






9,「偽りの接吻」(3Z土銀)


その言葉を唇の先だけで受け止めている。わかっていて、そうしているのだから、確信犯だ。


「好きだ」
「うん、知ってる」


ゆるやかに微笑んで、けれどそれ以上には進まない。進めようとしない。それが正しくて、それがいいのだ。たぶん。
土方はひどく心外な顔をしている。いつもどおりの答えで流されてしまえば、もちろんそうもなるだろう。
だからといって、何をしてやれることもないのだ。たかが生徒と教師だ。 あと一年もしないうちに、土方は卒業し、そして俺を忘れるのだろう。


「先生、俺は本気だ」


銀縁の眼鏡をはずす。そして困惑したように歪んだ唇に、ただ静かにキスをしてやる。


「…え、」


ごめんな、とそれだけを呟く。これは、偽りの接吻でしかない。お互い想っているくせに、気持が重なることは、ないのだ。







10,「終わった後のもどかしさ」(沖神→銀)


私と沖田は何度でも終わる。そして何度でも始まる。

ほんの時々、そうしてそばにいる。最初は単純に行動パターンが重なっただけだったのに、 いつの間にかそばにいるぬくもりになれてしまった。
そうして始まった、いつかのころ。
手も、唇も、体も、いつの間にか重なって、そうして、私は自分に嫌気がさした。
そして帰る場所を思い出して、彼に一言謝って、本当に居たかったはずの場所へ帰る。


「帰ればいい」


沖田はそう言って、怒ったりはしない。私はしばらくの間、銀ちゃんの傍でその言葉を反芻して少しの間だけ、彼を思う。
幾度も幾度も楽しかったことや嬉しかったことを思い出して、終わってしまった恋のもどかしさを心の中で噛み砕く。
あの暖かさを、たぶん愛と呼ばれるそれを。

人には矛盾している、と、優柔不断だ、いけないことだ、と言われるかもしれない。
でも、その繰りかえしが、きっと私を一歩ずつ彼に近づけるただ一つの方法なのだ。







11,「ありがとうございました。」(万事屋)


「じゃあ、行きますね」
「ああ、頑張れよ」


新八はそう言って、玄関に立った。少し精悍になった顔を銀時は見送って、唐突なくらい静かになったリビングに戻る。
開け放った窓の向こうからは宇宙船の飛ぶ、重低音が遠く響いている。神楽はあれに乗っているのだろうか。
新八は、本当に剣道場の師範になれるのか、なんて、自分には直接何があるわけでもないことを考えている。
喧しくなくなってしまったからだろう。あの二人がいた時には、なんだかんだとやることが多くて考えるなんてできるはずもなかった。

二人は、出ていく前にらしくもなく、(神楽に至ってはどこで覚えたのか)きちんとお辞儀をして、 ありがとうございました、と銀時に言った。
その足元に、春の日差しがくっきりと影を描いていた。


「べっつにそんなこと言って欲しくて一緒に居てたんじゃねーけど」


銀時はソファの上で、うんと伸びをする。なにもかも、この胸の内にしまって。
これからはそれが、ありがとうの言葉と共に、この先の道を照らす明りになるだろう。


「さて、俺は何をするかな」


胸の明かりの温かさを感じながら、またこれから歩き出すのだ。










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これくらいの長さがやっぱり一番書きやすいなあと思います。
にしたって、暗い話が多い…。
09.01.04