No
matter
what
コンビニの本棚に並んでいたジャンプを読んでいて、ふと、顔をあげた。そうしたら、前を通りかかった土方と目があったので、びっくりした。 断じてこれは偶然で、本当にふと顔をあげただけだったのだ。 目のあった、土方の顔も自分同様驚いているようだったので、たぶん向こうも今の今まで気が付いていなかったのだろう。 ぽかんとして、読みかけのジャンプに戻るでもなく、その顔をしばらく見ていたら、土方は咥えていたタバコを消して、身をひるがえした。 どこに行くのかと思えば、すぐにドアの開く音がして、土方が入ってきた。 「ありゃ」 呟いて、手のジャンプを本棚に返す。そして土方の方へ向かうと、なぜか買物かごを持っていた。 目があった時はすぐに通りすぎてどこか向かうのだろう、と思うような動作だったのに、一体何だっていうのだろう。 「どしたのさ」 「暑い」 だからなに、と問う前に土方はさっさとドリンクの方へと足を進めた。 甘いものを好まないのに、なぜか炭酸の入ったドリンクを選んでかごに入れる。後ろについて行くと、こちらをおもむろに振り返られた。 「んだ、いらねえのか」 「え、あ、いりますいります」 急いで答えると、別に飲みたくはなかったのだけれどと思いながら、一つジュースを掴んでそのかごに入れた。 土方はどこか満足げにそれを見て、次の棚へ向かう。アイスを同様に土方は銀時の分も選ばせ、 自分用のガムなんかをぽいぽいとかごに入れていた。 菓子あたりの棚へ来ると、何か言いたげにこちらを見るので、適当に見つくろって、かごに入れる。 そのあたりで、銀時はやっと気付く。土方のこの行動の理由に。 「ああ、あれもだ」 ふらりと雑誌の棚に向かうと、さっきまで銀時が手にしていたジャンプをぽいとかごに入れた。 そしてレジに向かう途中で、ドリンク剤を適当に掴んで入れた。 会計の途中に、タバコを三箱頼み、そしてなにも言わずに全額、土方の財布から支払われた。 その間ずっと、銀時は様子を窺うように、土方の後ろに付いていた。大丈夫か、なんて思いながら。 (八つ当たりか、こりゃ) こんな、普段なら絶対にしないようなことをするときは、大体がいらついているのだ。 声を荒げて怒ったり、ましてや関係のない人や物に力任せになにかするような八つ当たりは、土方はしない。 でもこうして分かりにくく発散しているのだ。こんな弱みを、他人に見せていいのか、なんて思う。 それとも気付いてしまっている自分が悪いのか。 それでも、これが、土方にとっての『少し特別』な人物への態度だとわかってしまっている。それに、付き合ってやりたいだなんて。 大きめの袋を受け取って、なんの未練もないようにすたすたと店を出て行く土方に、銀時は付いて行く。 店の前で、袋からアイスを出して、土方は無言のまま銀時に差しだし、そして自分の分を開けて食べ始める。 「甘……」 「無理だったら、俺食うよ」 「ああ」 そう言いながらも黙って食べ終わると、今度はペットボトルを取り出して、それをあおるように飲む。 少し傾き始めた日差しを受けた、土方の横顔を見る。眉間のしわも少しはマシになったな、なんて思いながら。 大きくため息をつくように、ボトルから口を離した。 「……悪かったな」 「何の問題もないけどね、俺は」 素知らぬふりで銀時もペットボトルのふたを開けると、小気味いい炭酸の抜ける音がした。 土方がこちらを見てほんの少し、笑った。やっとガス抜きできてやがんの、なんて思って、 銀時もその晩夏の光を受けながら、笑い返してやった。 -------------------------------------------------------------- 2011.08.21 甘え方もへたくそだし、甘やかすのも不器用、な二人。 イベントでペーパーに付けて配布しました。 |