くすぐる



 擽 る



特に盗み聞きするつもりはなかったんだけど。
そう思いつつ、山崎は土方の部屋の襖から少し離れた廊下で硬直していた。
右手にある資料が、重力に負けてふにゃりとしな垂れた。


「ちょ、あっ、ひじか、あぁっ、いたいって」
「黙ってろ、動くともっと痛いぞ」
「おま、この下手くそ!」
「っ、黙ってろって」


土方は今日オフだし、なにしてたっていいんだけど。でも昼間っから、誰が来るともしれないのに。 近藤さんが忘れそうだからこれだけ渡して来て、っていう資料を持ってきただけで急ぎの案件でもないし、後でもいいかなあ、 とか、そんなことがぐるぐる頭の中を手をつないで回っていた。
あの声は間違いなく、万事屋の彼だ。いつの間に来ていたんだろう。 最近割に頻繁に会っているようだと知ってはいたけど、そんな関係だったとは、と山崎は音を立てないように一歩下がった。 幸いこういことは得意作業なので、きっと気付かれてはいないだろう。


「うー、あ、指突っ込んだって無理なもんは無理……」
「もうちょっとなんだよ、だから抵抗すんなって」
「あーもう無理、もうお前代われ!俺が見本見せてやる!」
「えっ、ちょっと待て」


どたん、と何か蹴るような音が響いた。山崎はまたもう一歩下がる。 聞こえてくる会話にうわあ、と声を出しそうになって片手で口を押さえる。
……聞かなかったことにしよう。そうしよう。






















あんまりに痛いから、抵抗して足を動かした。かかとが畳をかなり強く叩いた。 その勢いに驚いたのか、土方の手がやっと離れて、銀時は起きあがった。


「お前、耳掃除下手!いてーんだよ!代われ!」
「動くからだろーが!」
「指突っ込んだって耳垢なんか取れるわきゃねーだろ!」


言葉に詰まった土方の手から、銀時は耳かきを奪い取って座りなおすと、自分の膝のあたりを両手で叩いた。


「ほら銀さんがやってやるよ」
「……男に膝枕されんのか……」
「おい今さっきまでてめーだってやってたろうが」
「そうしねえとやりにくいじゃねーか」
「矛盾してんぞコラ」


しぶしぶ、といった体で土方は横になって、膝に頭を載せた。 指先で髪をよけて、耳の後ろに掛けてやる。土方はこちらを横目で見たが、なにも言わなかった。 耳かきを構えて笑って見せる。


「銀さんの美技に酔いな」
「馬鹿か」
「脳みそも掻き出してやろうか?」
「……冗談でもそういうこと言うなよ、こんな無防備に急所見せてんだからよ」
「信用してるってこと?」
「言わすな」


銀時は目を瞑っている土方に見えないところで、情けないような表情で笑った。












「はぁい、反対側」
「……お前耳掃除うまいな」
「だから言っただろ。神楽の俺がやってるもん」
「マジでか」


マジマジ、と返事しつつ左耳も同じように髪をよけて、耳の穴を覗き込む。
土方は外では見られないような柔らかな表情で、目をつぶって頭を預けている。 襖の桟が作る影がゆっくり移動していて、日が傾きつつあるのがわかる。

こういうものそんなに悪くない。
銀時はそう感じながら、指先をそっと動かした。
















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10.05.10
エロか!?と思った人は色んな意味ですいません。
大変楽しかったです。こんなベタなネタ初めて書きました。
耳という字がゲシュタルト崩壊!