こくはく







「ばぁか、言わせんな!」


言わないとわからない、なんてことないクセしやがって。
 






こくはく






ぐんとさかのぼって二月、寒い盛りの頃だ。どうしようもなく、財布も寒かった。
この天気の悪さだが、どぶ掃除すら頼むのも億劫なくらい皆外出しなくなっているのか、万事屋も史上最低に寒かった。ので、バレンタインデーというイベントはカレンダーから抹消した。米粒もない家でどうやってチョコレートを生成しろと言うのだ。
元から甘いものが好きでもない奴に、わざわざそんなもの、と思っていたが、なんの罪悪感もないのかと言われればそれは絶対的に嘘で、土方が忘れていてくれることを心底願ったりした。そういうことに神経すり減らしていることも、ひどくむなしかったが、そう思いながらも土方が訪ねて来てたりして、少しでもこの行事に期待していてくれないかなんて考えている自分もいるのだから、始末に負えない。
結局十四日に来なかった土方は、翌日、噂を聞いてか、それとも予想をしていたのか知りはしないが、小さなヒーターを持って訪ねてきて、渡した財布を握ってスーパーに走る新八を笑っただけだった。嬉しいというより単純に悪いな、と思ったのだった。何にかはわからないが。こういうことを当たり前とは思っていないが、それを言葉にもできないのは、ひどく卑怯だと思ったのだ。尊敬とか珍重とか言う前に、多分、ちゃんと好きなのだし。


だから、結構頑張ったのだ。この一か月。ホワイトデーなんて言葉にかこつけて、何とかできるのではないかと思ったので。
と言うわけで、今史上最高にちゃんと札の詰まった財布を持って、土方の前にいる訳ですが。


「なんか欲しいもんとかねーの」
「……期待したことねーし、出てこねえな」
「ひでぇ」


ああ、と思いついたように手を打つ。何を言い出すのか身構える。にやりと笑ったときに、すでに嫌な予感もしなくはなかったが。


「金のかかることじゃなくて、告白の一つでもしてもらおうか」
「……お前のことなんか好きに決まってんだろーが!」


度胆を抜かれたような顔の土方に、罵倒の一つでもやらないと、ひと月分の労働も水の泡、愛されちゃってて困るよほんと。










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2013.03.17
春コミの無料配布でした。