だからで許して 「お前、昨日テレビ映ってたよね」 「あ?そうだったかもな」 「知らねえのかよ」 定食屋で偶然土方に会った。丼をかっ込みながら、土方は特になんでもないことのように返事をした。頓着しない奴だなあと、銀時も同様に箸を動かす。 ほぼ同時に箸を置いて、土方が財布を出そうとする手を制して、もう片手で札を店主に渡す。 「こいつの分も一緒で」 「はいよ」 「なんだよ?」 「いーから」 釣りを受け取って、店を出る。昼の込み合った店内はがやがやと喧しく、二人一緒に出て行くことに目を止める客はいない。 狭い通路を通るために体を斜めにしたすきに、土方の手を取って、引っ張って行く。 「……おい」 「いいから」 外に出て、銀時はその手を離す。土方はあからさまに不審な顔をしながら、こちらを見る。 昨日テレビ画面で見た顔と同じはずなのに、全然違うように見えるから不思議だ。 「なんなんだよ」 「もうちっと頓着すりゃいいのに。それなりにかっこいいんだからさあ」 店内で、店員の女の子がこっそり土方を見つめていたことに、こいつは気付いていないのだろう。 土方が金を差し出すのを待って、手でも触ってやろうなんて思っているのは、こっちから見ていればバレバレだった。 だから、何だか癪だったので、一緒に会計をしてやったのだ。ざまあみやがれ、と内心思っている自分は結構、いや、すごく意地悪な奴だ。 なんて思いながら土方の顔を見ると、びっくりしたような顔でこっちを見ていた。いつもより顔が赤い。 あ、やっちまった、と思った時には、こっちまで顔の表面が熱くなっているのを感じる。 「あああああ、いやあれだよ、お前今日誕生日だろ、まああれだよ、プレゼントみたいなもんだってははははは」 「なんだよ、そりゃ……」 「だから、許して」 何を、なんて土方は聞かないで、ほの赤い顔ですこし笑った。こんな顔、今、俺しか知らない。 -------------------------------------------------------------- 11.05.05 5月4日のスパコミで配布したペーパーに付けた、土方誕生日小話でした。 赤面する、がテーマでした。めずらしく少しかわいい感じになりました。 貰って下さった方、ありがとうございました! |