あとにのこる
水着、という言葉に振り返った。まさかそんな言葉が出てくると思わなかったので。 「水着?」 「そ。買いに行かねーとなんねーの」 なんでまた、と問うと、どうやらプールの監視員のバイトをするらしい。何でも屋たってそれは専門外だ、と言うこともあるだろうに。そこまで切羽詰った財布事情なのか。 「水着買う金なんかあんのかよ」 「支給されますからご心配なくぅ」 銀時は余裕綽々の顔でそう言う。きっと時給が良いのだろう、機嫌も良い。炎天下で水着で、プールの監視員。この陽に焼けにくいやたらと白い体を晒して。そういうことを考えて、見たいという純粋な興味よりも、そんな恰好を大勢の前に晒すのを許しがたい、という独占欲が勝ってしまっていることに気付く。許すも何も、銀時は好きにやりたいようにするだろう。そうであるからこそ、こいつと共にいる時間を持つことに意味があるというのに。 「何、なんか不機嫌な顔してんじゃねーか」 文句あんならはっきり言えよ、と指を突き付けられる。人を指さすなと教わらなかったのかこいつは。それともプールサイドで注意をする時の、練習でもしているつもりなのか。 「文句なんかねーよ」 ただ、と土方は続ける。怪訝そうな銀時の顔は、間近で見ると少し面白い。睫毛も白いのだから、夏の日差しはまぶしいに違いない。プールサイドで存分眩しがって来るがいいさ、と内心いじわるなことを思う。 「んだよ」 「せいぜい沢山、水着の女でも見てくるこった」 「……やっぱりお前がいい、なんて口が裂けても言ってやんねえから期待してろ」 今その言葉が聞けただけでも十全。裸の日焼痕を笑ってやれることを期待して待っててやるさ。 -------------------------------------------------------------- 2013.08.18 夏インテで配布したペーパーのおまけでした。 |